私は仕事柄多くの部門間の調整をすることが多いのだが、ここでいつも思うのが、どの組織の長も企業全体の利益より部門の利益を尊重していることだ。この原因として、おおまかに
- 部門の業績(売上、残業時間等)が自分の評価に結びつくため、自部門の重要な収益源を減らすような変革は利益を下げることになるため
- 自部門の仕事がキツくなり自分の負担が増えるにもかかわらず、評価に影響がないため
- 逆に、仕事が減っては自部門の存在意義がなくなるため
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といったことが挙げられる。ここで、1.と2.は単純に会社側の評価体系に問題があるだけだが、3.は比較的多くの要因に目を向けなくてはならない。
1.と2.については、評価者たる役員や事業部長等と、被評価者たる部長が、そもそも評価とはどういうことか、役職とは会社にとってどんな意味を持つのかを正しく知る必要がある。基本的に評価には業績の絶対量と挙げた業績を評価する場合と期待していた業績の比率を評価する場合の2つのケースがある(もちろんそれ以外のわけのわからない部分を評価する会社はごまんとある)。
基本的に部門の役割・業務は企業全体にある役割を会社からの管理のしやすさ、実務担当者の業務のしやすさの両側面から効率的に分割してできたものであり、期待役割はある一定期間に企業全体が挙げたいと思っている業績を実現するための要素を各部門の実行能力・実現性を見ながら割り振ったものとなっているはずだ。
その期待役割に対して社員はどう振る舞うべきか。会社と社員との間の関係を契約として考えると(本来どんな雇用関係も、いや、ほとんど全ての人間関係は契約だというのが私の私見)、会社は社員に対し期待役割を提示する責任があり、この期待役割を見ると、会社がその社員の年収を支払うために求める業績が明らかになる。もちろん、期待役割に対して報酬に不満があればより適切な報酬を支払ってくれる会社に移ってしまう可能性がある。こういった関係がオトナの企業と従業員との関係だと私は思う。
1.と2.の不満についてはその従業員(ここではある部門長)の期待役割と業績評価指標をちゃんと修正することができれば理論的には解消できそうだ(挙げることのできる業績の絶対値が小さくなるために他の部門長との間の競争(より上位の職位への抜擢等)に不利になるという面もあるのだが)。
3.がこの話題についてのミソである。『わたしの部門は会社にとって重要なんですか』『わたしは会社にとって必要な人間なんですか』これらの問いにきちんと答えるためには結構な知恵が必要だ。世の中にはリストラクチャリングやリエンジニアリングといった企業構造の改善手法があり、適材適所という言葉がある。きれいに効率良く構成された企業には無駄な仕事はなく、部門もない。どんな部門も確実に企業に必要とされるように設計することはできる。ところが、従業員のポテンシャルをできるだけ高く引き出すための人員配置をすることはできるが、全ての従業員を最大に生かすことはできない。なぜなら、たいていの企業には「いればいるだけ儲かるのでたくさんの人にやってほしい仕事」と同時に「企業を回していくために必ずある程度の人数が必要で、それ以上はいらない仕事」があるからだ。本来きちんとこれらの人数を見積もって後者を必要なだけ、前者を管理できるだけ採用できればいいのだが、これらの人員の要件は日々刻々と変わるし、仕事は昨日まで必要だったけど今日からは要らないと決め付けることができるが従業員はそうはいかない(少なくとも今日明日というスパンでは)。
また、その人が最も高いポテンシャルを持っている業務分野が最もやりたい業務であるとは限らない。私がそうだが、ヘタの横好きというヤツだ。こういう輩がやりたい職務に就きたいと思ったら「それしかやっていない」会社に転職するしかない。私が普通の会社に移って今のような仕事にちゃんとつけてもらえるかは結構あやしい(最近はコレしかできなくなってきているから仕方なく就けてくれるかも)。
ということで、ここらへんは結局運でしかない、というのが私の立場。ビジネス経験が長く会社の表も裏もある程度見極めることができる人ならともかく、学生や狭い業界しか知らない人などが自分の好きなことをやらせてくれる会社を選ぶというのは非常に難しい。「じゃあ私はビジネス経験が豊富だから大丈夫」とうそぶく人も将来どんな仕事が必要になっていくかを予言できるわけではない。自称/他称「神」のみなさん以外の一般人ができることは経験値を増やしてカンを養うことと、方向修正の機会を多く持つこと。つまり、積極的に転職のチャンスを窺うことだと思う。幸い世の企業は労働力を流動的に持つべきだとの考えを徐々に持ち始めており、そういった意味では昔の人よりわれわれは恵まれている。高橋俊介のセリフになってしまうが、大事なことは「自分の市場価値以上に生活レベルを上げて選択肢を狭めないようにし、自分自身の流動性を保つ」ということだ。